シンジとトウジが何度か自転車を交替して、漸く

三人は目的のジャンクの山に辿り着いた。







「・・・・凄いね、久しぶりのヒットだ・・・・」

息を切らせながらジャンクを見上げ、シンジが言う。

「そやろ、そやろ・・・・」

トウジが満足そうに頷いた。

「でも、かなりぎりぎりだね・・・・・」

「・・・・・それが問題なんやけど、ま、しゃぁないわ。」

シンジとトウジは汚れきった革の手袋をはめ、ジャンクの山を漁り始める。

がらがらと音を立て、不安定な山は崩れた。

売れそうなものを見つけだしては、袋に入れてゆく。

アスカは物珍しげに、二人の様子を眺めた。

アスカには何が売れて、何がただの塵芥なのか良く分からなかった。

足元に転がる鉄屑を拾い上げて、シンジ達が集めているものと

見比べて見る。

「ねえ、これは駄目なの?」

アスカは自分の拾った鉄屑をシンジに見せた。

「・・・・うん、それは売れないよ・・・・」

「ふーん・・・・」

つまらなそうにアスカは、手にした鉄屑を放す。

そして、止めてある自転車にまたがりペダルをふむと、からからと

後輪を空回しさせた。











街は静かだった。

二人が廃棄物を崩している音ばかりが辺りに響いている。

「ねえ、シンジ、あの通りの向こうって何があるの?」

アスカがジャンクの山の裏に走る、大きな通りを指した。

シンジは顔をあげ、アスカの指した方向を見る。

   「・・・・・・E-区だよ、」

「E-区?」

アスカは頚を傾げる。

「無駄や、無駄、説明してもわからへんて、この女には。」

「・・・・うるさいわね、さる!」

「な、なんやて〜!!」

トウジは持っていたICを放り投げ、アスカを睨み付けた。

「もう、トウジやめなよ・・・・」

シンジが二人の間に割って入る。

「この通りから向こうは、E-区って言って、ここよりずっと危険なんだ。」

「危険?危険って、どういうこと?なんかエイリアンみたいなのが居るわけ?」

「ほんま、あほちゃうか・・・・・」

トウジがぼそりと、呟く。

アスカはじろりとトウジを睨み付けた。

「このB-区はまだNEO 3RD TOKYOに近いからね、それ程危険なところじゃ

ないけど、でも、この通りを超えるとかなりヤバイんだ。

ジャンキーの溜まり場だからね・・・・

ふらふら歩いていたら、何をされるか分からない。」

「ま、金のためには人間でも平気で売ってまうような奴等が

ぎょうさんおるねん。お前なんぞ、シンジに拾われなんだら

今ごろは、B- 区の奴等にとっ捕まっとったやろな。」

意地の悪い笑を浮かべ、トウジは言った。

「捕まる・・・・?捕まったらどうなるのよ?」

「それが分からないから、怖いんじゃないか。」

シンジは作業を再開しながら答える。

「女は大体想像つくねんけど・・・・」

トウジも作業に戻る。

「・・・・・ふーん・・・・・」

アスカは手をかざして、通りの向こう側を覗いてみた。

これといって、変わった物は見当たらない。

動く人影も見えなかった。

「何も見えない・・・・」









一時間ほど二人はジャンクの山を崩すと、色々なもので

一杯になった袋を担ぎ上げた。

「ほな、そろそろいこか、」

「うん、・・・悪いけどアスカ、暫く歩いてよ。」

「えー!!」

「ほんじゃ、この袋担いで自転車乗りよるか?」

トウジにそう言われ、アスカは頬を膨らませた。

シンジとトウジは自転車を押して歩き始める。

「仕方無いわね・・・・・」

アスカはあきらめて、二人に並んで歩きだした。








重い荷物を背負ったシンジとトウジは黙ったまま歩く。






来た道程の半分程来たところで二人は、シャッターの降りた

ガレージの前で止まった。

「マコトさん、わいや!ええもん持ってきたねんけど、」

中でがたがたと音が聞こえ、暫くの間があってから、

シャッターが開けられた。

「やあ、良く来たね、まぁ、入りなよ。」

眼鏡を掛けた青年が現れ三人を招き居れる。

ガレージの中は色々な機械類で溢れていた。

何台かのコンピュータが並び、機械の動く低い音が

響いている。

トウジとシンジは背負っていた袋を下ろすと、マコトに中身を

広げてみせた。

「へぇ、なかなかの物じゃないか、」

マコトは感嘆の声をあげた。

一つ一つを手にとって、満足そうに頷いている。

「いいな、全然問題なく使えそうだ・・・・・高く買うよ。」

シンジとトウジは顔を見あわせ、笑いあった。

シンジ達は集めたジャンクを、大抵はここに売りに来る。

他よりも顔が利くため、高めに買い上げてくれるからだ。

マコトは顔を上げ眼鏡を指先で軽く持ち上げると、

今度はアスカに視線を向けた。

「へえ、今日は随分と可愛い娘が一緒じゃないか、」

アスカは話題が自分に移ったので、急に機嫌を良くし始めた。

「アスカです、ヨロシク、」

にっこりとマコトに微笑みかける。

「・・・・な、なんや、あの態度の変わりようは、」

トウジは眉を顰め、シンジは肩を竦めた。

「シンジ君の彼女かい?」

「え・・・・?!ち、ちがっ・・・・!」

「違います!そんなんじゃありません!」

シンジがそれを否定するよりも早く、

強く、きっぱりとアスカは言い放った。








***********







すっかりアスカはシンジの住み処に馴染んでしまった。

シンジもそれを許していた。

アスカは自分の事について、何一つ話そうとはしなかったが、

シンジも何も聞こうとは為なかった。

特に聞きたいとも思わない。

ここにいるものは皆、言いたくないことの一つや二つは持っている。

ジンジにとって、ここでの暮らしは一人でも二人でも同じだ。

アスカが来たからといって、何かが大きく変わることはない。

ただ、二人分の食料を調達するために今まで以上に、外に出て

ジャンクの山を回らなければならなくなった。

シンジはそれ以外に、食料を手に入れる手段を持っていなかったのだ。









「アスカ、僕出掛けるけど、一緒に行く?」

シンジは出掛ける支度を始めながら、アスカに尋ねた。

「いかない・・・・」

僅かに視線を上げ、興味なさそうにアスカは答える。

アスカは勝手に引き出したシンジの服を、自分用にリフォーム

為ているところだった。

「・・・・そう、じゃあ行ってくるよ。」

シンジはアスカを残し、部屋を出ていった。

重い扉がばたんと閉まる。

階段を降りて行く軽い足音が遠のいてゆく。

アスカは耳を澄まし、その足音が聞こえなくなるのを確認した。

「・・・・・行ったわね・・・・・」

やっていた作業を途中で放り出し、アスカは立ち上がる。

「いっつも、あいつに頼ってばっかりじゃいられないもの。」

アスカはゆっくりと扉を開け、シンジの姿が見えないことを

確かめると、外へと飛びだした。









空は低く曇り、空気は淀んでいる。

けれど、アスカは何一つ不安を抱くことなく、街を走り抜けた。

長い髪が、軽やかに舞う。







アスカは以前三人で行った、E-区の近くに

投棄されているジャンクの山へと向かっていた。











The Next・・・・・